頸椎や椎間板、脊柱管などのはたらきやヘルニアの痛みの原因について説明しています。
背骨は椎骨(ついこつ)という24個の骨がブロックのように積みあがってできています。そして、頭を支える首の部分の7つの椎骨を頸椎(けいつい)と呼びます。頸椎が蛇腹のように動くことで、首を曲げたり伸ばしたり、ねじるなどの動作ができるのです。
椎骨と椎骨の間には、椎間板(ついかんばん)と呼ばれる軟骨があります。椎間板は、ゼリー状の髄核とそのまわりを包む線維の層が重なった線維輪でできています。あんこもちで例えるなら、髄核があんこ、腺維輪がもちといったイメージです。椎間板は脊柱に加わるショックを吸収して、首に安定性を与えるクッションの役目を果たしています。
椎骨の中のトンネル状の空間である脊柱管には、重要な神経である脊髄が通っています。頸部の脊髄からは腕や手の末梢神経に伝わる上腕神経叢が枝分かれしています。その枝分かれしている部分を神経根と呼びます。
では椎間板ヘルニアの痛みはどのようにして生まれるのでしょう。
何らかの原因によって、椎間板の外側の繊維輪が壊れて中の髄核が飛び出してしまう状態を椎間板ヘルニアと言います。あんこもちのあんが飛び出した状態です。この飛び出した髄核が脊髄や神経根を強く圧迫すると、その神経が支配している部分に痛みやしびれを感じます。
腰椎がヘルニアになった場合は、足や膀胱など下半身に症状が現れます。頸椎がヘルニアになった場合は、肩、腕、手などの上半身に症状が現れます。頸椎は重い頭を支えなければならないため、腰椎の次にヘルニアを起こしやすい部分です。
頚椎椎間板ヘルニアという病気は実はとても身近な整形外科領域の疾患で、特に加齢が原因となることが多いため、高齢化社会を迎えた今、誰がなってもおかしくない病気です。また、パソコンやスマートフォンを長時間見る習慣のある若年層にも急増している病気です。
頚椎椎間板ヘルニアの特徴として、まずあげられるのは、非常に多くの症状を呈するということです。正確に言いますと、症状が出はじめてから最初のうちは首や肩、腕などに異常が出てくるのですが、悪化するにつれて頭部や下半身にも症状が広がっていきます。腰椎椎間板ヘルニアの症状が出るのは、腰部から下に限られますが、頚椎椎間板ヘルニアは全身に症状が出るのです。
症状が軽いうちは、肩こりや首の痛みが主なのですが、そのうちに腕がだるくなったり浮腫んできたり、しびれたりします。もっとひどくなると、腕の筋力が落ちたり、箸を持てなくなったり、ボタンをかけることができなくなったりして、日常生活に明らかに支障が出るようになります。
その後、頭痛や目の充血、耳鳴りなどがはじまって、最終的には歩けなくなったり、尿失禁などの排尿障害が起こることも。頚椎が、いかに全身の神経と筋肉を司る大事な部分であるかを証明しています。人間は、赤ちゃんのときに首がすわってからというもの、頭という非常に重たい部分を細い頚椎でずっと支え続けているので、加齢によって頚椎に異常が出てくるのは自然の成り行きとも言えるでしょう。
そのため、首に異常を感じたなら、早めに整形外科医を受診してください。特に、腕のしびれが出てきた場合には、急いで受診することをおすすめします。処置が遅れてしまうと、腕のしびれの症状が出て、数日から数週間の間に足までしびれて歩けなくなってしまうことがあるからです。
しびれというのは、神経が圧迫されて起こっている症状です。神経の圧迫が長時間続くと、圧迫を受けている神経が傷ついて元には戻らなくなるので、早めの受診が必要になります。
腰椎椎間板ヘルニアの場合、保存療法でヘルニアが治ることがあります。手術をしなくても、ヘルニアの症状が治まり、腰痛やしびれがとれた、という話を聞いたことがあるかもしれません。
しかしながら、頚椎椎間板ヘルニアの場合には、自然にヘルニアがなくなることは、非常にまれなことです。特に、しびれが数ヶ月続いていて日常生活が困難であるとか、歩行障害や排尿障害が出ているような場合には、自然には治ることはまず難しいと思ってください。
腰椎椎間板ヘルニアの自然経過で、ヘルニアが自然消退することはすでにLindblomらにより1950年に報告されているが、近年、MRIによる経過観察が多数報告され、さらに確実となっている。そのメカニズムはヘルニアの周辺に新生された血管周囲に多数出現したマクロファージの髄核に対する貧食作用による吸収や、脱出した髄核のプロテオグリカンの脱水現象により脱出ヘルニアは縮小、消退するとする説が有力であり、免疫組織化学的研究により明らかにされている。一方、頚椎椎間板ヘルニアについては国分が変性過程、発生機序、脱出様式などについて詳細に研究報告しているが、脱出したヘルニアの自然経過については報告が少ない。
出典:『頚椎椎間板ヘルニアのMRIによる経過観察』 整形外科と災害外科 45:(2)443~447、1996.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai1951/45/2/45_2_443/_pdf
頚椎椎間板ヘルニアは、一度症状が出はじめてしまうと長く付き合っていかなくてはならない病気ですし、いったん炎症が収まって痛みから開放されても、再発が怖いのでいつも気をつけていなければならなくなります。
つまり、頚椎椎間板ヘルニアにならないように予防することがとても大事です。頚椎椎間板ヘルニアの予防法は、実は誰にでもできるとても簡単なことです。
まず、常に姿勢を正しく保つことが重要になってきます。椎間板に過度の負担をかけない姿勢は、背筋をしっかり伸ばして顎を引いた状態のことです。立っているときだけでなく、何かの動作時も歩いているときも座っているときも、背筋が曲がってしまわないように注意して過ごします。
また、自分にあった枕を選ぶこともとても重要です。人間は、一生にうちの1/3は寝て過ごします。枕は、寝ている時間帯の姿勢を左右するとても大事なものです。頚椎に負担のかからない高さと硬さの枕を選ぶようにしてください。